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最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)1119号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人鍛治利一、同和智昂の上告理由第五点ないし第七点、同福井盛太、同横田武、同宮沢邦夫、同飯塚信夫の上告理由第三点、同和智昂、同和智竜一、同武井正雄の上告理由第三点、第四点について。

原判決は、原告(上告人)は昭和三〇年五月二日午前九時頃佐賀県モーターボート競走会の会長のみを辞任したもので、同会の理事を辞任したものでないと認定したことは、所論のとおりである。しかし、上告人の辞任の意思表示の趣旨は、従来の同会役員選任手続に関する慣習や、辞任の動機等をも考慮して論理の法則と経験則の教える所に従い表意者の真意を探求して、できるだけその意思に副うように解釈すべきこと論を俟たない。しかるに、本件弁論の全趣旨によれば、従来佐賀県モーターボート競走会の会長選任に際しては理事に選任した上その互選とすることなく単に会長に選任する慣例であつたことは明らかであり、また、会長辞任の動機が市長との兼職禁止規定を回避するにあつたことも明白である。されば、原判決が佐賀県モーターボート競走会の会長のみを辞任し同会の理事を辞任しなかつたとするには、右の慣例、動機等に照し、かく認定すべき特段の合理的な理由を示さなければならないものといわなければならない。しかるに、原判決は、単に甲第五号証に会長を辞任する旨記載あるの故をもつて本件競走会の内部関係の名称に過ぎない会長のみを辞任したものとし、地方自治法第一四二条にいう「法人の無限責任社員、……に準ずべき」同会の理事(会長、理事が法律上かようなものであることは、原判決の確定したところであつて、正当として是認することができる)を辞任せず、特にこれを留保する特段の事由を示さないで、たやすく前記のごとく認定したのは、結局審理不尽による理由不備の違法あるに帰するものといわなければならない。それ故、所論は、その理由があつて、原判決は、爾余の論旨につき判断するまでもなく破棄を免れない。

よつて、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)

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